2010年3月27日土曜日

ゴンフォテリウム Gomphotherium sp.

Gomphotherium sp.
中新世・ユーラシア、アフリカ、北アメリカ
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 ゾウの進化を知る上で、非常に重要な位置付けにあるゾウ・ゴンフォテリウムです。
今回のイラストは、神奈川県立生命の星・地球博物館に展示してある復元全身骨格(2・3枚目の画像)を基に描きました。
 他の種類のGomphotheriumの全身骨格をご覧になった事のある方はお気付きと思いますが、この骨格は頭がとても大きいです。Gomphotheriumは脚が短く復元される事が多いので、相対的に胴が長く見えたり頭が大きく感じられますが、この骨格はそういう要素を抜きにしても大きいです。
肉付けした時、この大きな頭が不自然に見えないかと思っていたのですが、描き上げてみるとそこまでおかしくは無いかもしれません。
 Gomphotheriumについて気になっている事があります。それは、下顎の内側のどの辺りまでが口の中と同じ様な粘膜だったのかという事です。また、舌がどの辺りにあったか(どの辺りまで届いたか)も同じく気になります。
まず化石には残らないので分からないとは言われるものの、面白いのでよく人にご意見を求めています。

(イラスト・文 meribenni)

2010年3月16日火曜日

エティオケタス ウェルトニ Aetiocetus weltoni


Aetiocetus weltoni
漸新世・北アメリカ
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 前回投稿したのと同じ「歯のあるヒゲクジラ」・Aetiocetus属の一種で、保存状態の良い頭骨の化石にはヒゲが生えていたとされる特徴が認められます。
 weltoni種の歯は現生のハクジラの様に全て同じ形になりつつあったものの、それぞれの形はわずかに異なっています。Aetiocetus属のクジラが獲物を捕らえる際には、獲物となる生き物のサイズや習性により(群れか単独か)、ヒゲと歯を使い分けていたと考えられる様です。
 頭部のイラストは復元された頭骨イラストを、全身イラストは足寄化石動物博物館に展示されているA. polydentatusの全身復元骨格を基にして描きました。
 weltoni種は、polydentatus種の頭骨と比べると鼻の位置がより前方にあり、また歯の数も少ない事から、polydentatus種よりも古いタイプの顔付きだったかも知れないと思い、ハクジラ的な顔に描きました。ただ鼻の位置は兎も角Aetiocetus属での歯の数の違いが、現生の進化したハクジラの歯が増えるのと同じ意味なのかは分からないのでそこはちょっとこじつけっぽいですね。
生息時期も、どちらも漸新世後期(チャッティアン)だというところまでしか分かりませんでした。
 全身イラストでは後肢を体の外に出さない様にしましたが、参考にしたpolydentatus種の骨格の通りに描くと出てしまうかも知れません。しかし、この時期のクジラの復元図では後肢を描いているものが無いので、それに倣いました。また、少なくともweltoni種では後肢の化石は発見されていない様なので、描かないのが無難だとも判断しました。
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参考にした資料
・"Skull anatomy of the Oligocene toothed mysticeteAetioceus weltoni (Mammalia; Cetacea): implications formysticete evolution and functional anatomy"
Thomas A. Demere, Annalisa Berta
(Zoological Journal of the Society, 2008)

・追記
考えてみたら、歯が多いのがより進んだ形質だとして、それがハクジラ的な進化と同じとするとpolydentatus種の方をよりハクジラっぽく描かないと筋が通らないですね。

(イラスト・文 meribenni)

2010年3月13日土曜日

クリオロフォサウルス Cryolophosaurus ellioti

















クリオロフォサウルス 
Cryolophosaurus ellioti
ジュラ紀前期
南極大陸


特徴的なトサカと、南極で発見された、という事で、発表された時から話題性が高かった肉食恐竜です。2009年に国立科学博物館で開催された大恐竜展で撮影した全身骨格をベースに描いています。
 今回は、一つの試みとして、シルエットは全身骨格を元にしつつ、実際に化石が見つかった箇所のみディテールを描き込んでいます。古生物の化石というのは、全身すべてが見つかるのは非常に稀で、足りない部分は、同じ恐竜のほかの標本や、近縁種を元に復元します。
2009年の大恐竜展の図録には、このクリオロフォサウルスの発見された部位を図示してあり、それだけでも十分に分かりやすいのですが、こちらで記事を書くにあたり、ちょっとお遊びで描いてみました。といっても、発見された部位に関してなら肉付けまで出来る訳では無く、当然ながら前後のつながり等も考慮しなければならないので、こういうイラストも相当に強引な表現方法ではあります。

現在、発表されているクリオロフォサウルスですが、パッとみてアロサウルス類に近縁なんだろうな、と分かるくらいにアロサウルス体型です。当初は、原始的なテタヌラ類と考えられていたようで、全身の復元にあたり、ジュラ紀のテタヌラ類として代表的なアロサウルス類を参考にしたのでは、と想像されます。
ところが、その後、2007年のNathan D. Smithによる発表では、テタヌラ類よりも原始的なディロフォサウルスに近縁である、とされました。この説に従って復元すると、従来のアロサウルス的なイメージとは随分違った姿になる可能性もあります。顔つきもそうですが、前肢の指の数も変わってしまうのかも。
という事で、クリオロフォサウルスは非常に魅力的な恐竜なのですが、現段階では迂闊に造形出来ないネタの一つなのです。もちろん、今造るなら、やはり現在発表されている
骨格を参考にするのが順当ではあるので、逆にアロサウルスタイプの復元をやるなら今のうち、という事かも知れません。

















ベルギー王立自然科学博物館にて2012年5月撮影
(2012年7月追加)

参考資料
・「大恐竜展(2009) 図録」
「The DINOSAURIA」
・Smith, Nathan D.; Makovicky, Peter J.; Hammer, William R.; and Currie, Philip J. (2007). "Osteology of Cryolophosaurus ellioti (Dinosauria: Theropoda) from the Early Jurassic of Antarctica and implications for early theropod evolution"
「肉食の系譜」


(イラスト・文 ふらぎ)



2010年3月10日水曜日

エティオケタス ポリデンタタス Aetiocetus polydentatus

Aetiocetus polydentatus
漸新世・東アジア
:
 ヒゲクジラ的な頭蓋と立派な歯列を持つ「歯のあるヒゲクジラ」、Aetiocetus属の一種です。
このpolydentatus種は特に歯の数が多く、カズハヒゲクジラという和名を付けられています(カズハ=「数歯」)。
 北アメリカで発見されたAetiocetus weltoni種の保存状態の良い頭骨化石には、歯列の内側の広い範囲にわたって、現生のヒゲクジラの頭蓋に見られるのと同じ様な特徴(ヒゲに養分を送る為の血管や神経の通る孔)がある事が分かっています。
polydentatus種ではその特徴は確認されてはいないものの、同属という事で上顎歯列の内側にヒゲを描きました。
 北海道の足寄化石動物博物館には、歯のあるヒゲクジラでは唯一の全身復元骨格が展示してあります。
 イラストは復元された頭骨の図を基に描いています。
現生のハクジラは上顎の唇が厚く、歯が隠れてしまっている種類が多いので、このイラストではヒゲと歯が見える様に上顎の唇が薄く、口を閉じた時に発達した下顎の唇がその上に被さるヒゲクジラタイプの顔にしました。復元と言うには少しやりすぎな感がありますが、実際の所はどんな口だったのでしょう。
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参考にした資料
・"Morphological and Molecular Evidence for a Stepwise Evolutionary Transition from Teethto Baleen in Mysticete Whales"
Thomas A. Demere, Michael R. McGowen, Annalisa Berta, John Gatesy
(Systematic Biology 01 February 2008)
・"Fossil Cetacea (whales) in theOregon Western Cascades"
William N. Orr, Paul R. Miller
(Oregon Geology Vol. 45, Number 9, 1983)
・「クジラヒゲの出現‐解剖から化石へ」
澤村 寛
(勇魚49号, 2008)
・足寄化石動物博物館公式サイト

(イラスト・文 meribenni)

2010年3月4日木曜日

パトリオフェリス Patriofelis ferox

Patriofelis ferox
始新世・北アメリカ
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 絶滅した肉食哺乳類、肉歯目の仲間です。 パトリオフェリス属は数種類発見されていて、最大の種類であるferox種は小さめのクマ程の大きさになりました。このferox種は、ワイオミング州ブリジャー盆地から全身の骨格が出ているそうです。
 パトリオフェリスはあまり早く走る事は出来なかった様で、専ら待ち伏せ型の狩りをしていたと考えられます。また、幅広の足は泳ぐのに適していたのではないかとされ(水掻きがあったとも)、半水生の生活だったという説もあります。
 イラストはferox種の全身骨格図(Osborn, 1900)を基に描きました。
ネットで検索すると、vorax種というものの全身骨格画像が出てくるのですが、このvorax種の詳細は出てきません。とても気になります。
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参考にした資料
・"Oxyaena and Patriofelis restudiedas terrestrial Creodonts"
Henry Fairfield Osborn
(Bulletin of the American Museum of Natural History Vol.13, 1900)
・"Reconstructions of Eocene and Oligocene plants and animals ofcentral Oregon"
Gregory J. Retallack, Erick A. Bestland
(Oregon Geology Vol.58, 1996)

(イラスト・文 meribenni)



2010年3月2日火曜日

ロトサウルス Lotosaurus adentus


ロトサウルス Lotosaurus adentus

三畳紀中期 中国
全長約3m

「サウルス」とついていますが、恐竜ではありません。
「サウルス」というのは、恐竜以外の脊椎動物の学名にも
多く使われています。

ロトサウルスは、1981年の中国の恐竜展以来、
何度か恐竜博で全身骨格が展示され、現在は
福井県立恐竜博物館にも展示があるので、
マメにイベントや博物館に行っている方なら、御馴染の
と言っても良いはずなのに、影が薄気な感じ。
イラストは、恐竜博物館の骨格を若干補正しつつ
ほぼそのままトレースして描いてます。

その後、研究はどうなっているのか、
興味のある古生物。
手持ちの資料だと、1981年の恐竜展と
2004年の恐竜博でキャプションがほぼ一緒。
特に新発見・学説が無いのかなぁ。
記載論文とか見てないので、産出部位も
良く分からないから、全身骨格がどこまで正確かの
見当がつかない。
本当にこんなにしっかり直立?
同じクテノサウルス科(?)の中では、アリゾナサウルス
Arizonasaurus babbitti)が比較的有名(と思う)で、
これは論文に産出部位も載ってますが、
それによると前後肢がバッサリ未発見
(ついでに、資料によって頭骨形状が違うのも不思議)。



*追記
その後、この記事をご覧になった方から
ロトサウルスの論文のデータを頂きました。
記事にしてみて良かったです。
中国語の論文なので詳細は分かりませんが、
何となく読める文章や添付の画像を見る限り、
かなり良い保存状態の標本が複数発見されているようです。

(イラスト・文 ふらぎ)
(以上、こちらより転載)