2011年12月18日日曜日

エフィギア Effigia okeeffeae















Effigia okeeffeae
エフィギア オケエフェアエ
全長 約2m
北米
三畳紀後期


小型獣脚類・コエロフィシスの化石が大量に見つかった事で知られるゴースト・ランチで発見された動物で、恐竜ではなく、現生のワニに繋がるクルロタルシ類に属します。クルロタルシ類には、アエトサウルス類やラウイスクス類、フィトサウルス類等も含まれますが、その中で現在まで生き残っているのがワニの仲間です。

恐竜のようなプロポーションとクチバシ状の吻部を持ちながら、恐竜よりもワニに近い系統の動物という事で、発表時には話題になりました。現在では、2010~2011年に開催された「世界最古の恐竜展」で全身骨格が展示されたシロスクス等,似た特徴を持つ近縁種の存在も広く知られるようになっています。

















シロスクス復元骨格(2009 世界最古の恐竜展)


今回のイラストは、 "The anatomy of Effigia okeeffeae (Archosauria, Suchia), theropod-like convergence, and the distribution of related taxa."の骨格図を元に描いています。
いかにも恐竜な姿ですが、頭骨は恐竜と比べても奇妙な形をしており、どこか恐竜とは違う微妙な雰囲気が出せればと思ったのですが、なかなか難しいです。

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主な参考資料
・"The anatomy of Effigia okeeffeae (Archosauria, Suchia), theropod-like convergence, and the distribution of related taxa ; "Nesbitt, Sterling J.(2007)


・「世界最古の恐竜展」図録

(イラスト・文 ふらぎ
(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」

2011年10月3日月曜日

デスモスチルス Desmostylus sp.

Desmostylus
デスモスチルス

北太平洋沿岸 
中新世
:
 瑞浪市化石博物館用に描いたデスモスチルスです。
足寄化石動物博物館で展示されている、犬塚則久博士による復元骨格を基にして、海底をゆっくり歩いている様子を描きました。
皮下脂肪はかなり厚めにしているので、全体的に丸っこくなっています。  
 口の周りには太めのヒゲを生やしています。
頭骨の特徴から、デスモスチルスはジュゴンなどの海牛類のように唇の周りに感覚毛(ヒゲ)が密集しており、その感覚毛を使ってエサを探していたという説があり、また、犬塚博士と甲能直樹博士(国立科学博物館)による、貝のような海底に棲む無脊椎動物を食べていたという説から、このような顔になりました。
 ヒゲを使ってエサを探す現生のセイウチも参考にしています。
水族館で飼育されているセイウチは立派なヒゲを生やしていますが、野生のセイウチのヒゲは、使っているうちに摩耗して短くなっているそうです。
確かに野生のセイウチの写真を見るとイメージしていたよりかなり短めなので、デスモスチルスのヒゲもそれに合わせて多少短くしました。

 ラフの段階で、足寄化石動物博物館の澤村寛館長と学芸員の新村龍也さんのご意見を頂き、姿勢等の参考にしました。有難う御座居ました。
参考にした資料

・「絶減哺乳類デスモスチルスの復元」(バイオメカニズム 9, 1988)犬塚則久
・「デスモスチルスの復元 その後」(地質ニュース 421, 1989)犬塚則久
“幻の奇獣”デスモスチルスを知っていますか? -絶滅哺乳類の古生態を復元する- 甲能直樹

:

(イラスト・文 meribenni) 

2011年9月22日木曜日

スタレクケリア Stahleckeria potens
















Stahleckeria potens
スタレクケリア ポテンス

ブラジル
全長 約4m
三畳紀中期

:
スタレクケリア(スターレッケリア)は、ペルム紀から三畳紀にかけて繁栄したディキノドン類の中でも大型の動物の一つ。ディキノドン類は哺乳類へとつながる系統の中の獣弓類に含まれる動物群で、恐竜ではありません。スタレクケリアと同程度、またより大型のディキノドン類は、アルゼンチンより発見されているIschigualastia イスキグアラスティア(イスチガラスティア)が知られています。さらに大型のディキノドンと想像されてれいるものにエレファントサウルスがありますが、こちらは発見されているのが頭部の一部と断片的なため、全身のプロポーションは分っていません。

ディキノドン類は、同じ単弓類の多くが姿を消したペルム紀末の大絶滅を生き残り、その後の三畳紀の間に巨大化するものが数多く現れました。植物食であったと考えられています。

今回のイラストは、チュービンゲン大学での展示を主な参考に描いています。
















スタレクケリア(2011年 チュービンゲン大学にて撮影)


















イスキグアラスティア(2010年 東京「世界最古の恐竜展」にて撮影)



:
主な参考資料

・"Die Saugerahnlichen Reptilien" Frank Westphal

・"Staheckeria lenzii, a giant Triassic Brazilian Dicynodont"
  Romer, Alfred S. and Price, Llewellyx I.

・「恐竜大図鑑-古生物と恐竜-」(ネコ・パブリッシング社)

・「哺乳類型爬虫類」(金子隆一 朝日選書)


(イラスト・文 ふらぎ
(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年8月18日木曜日

オフィアコドン Ophiacodon mirus
















Ophiacodon mirus
オフィアコドン ミルス

北米
全長 1.6m
 ペルム紀前期

:

哺乳類の遠い先祖の系統とされる単弓類、以前は哺乳類型爬虫類と言われていた動物群の一種。その中でもオフィアコドンが属するペリコサウルス類は、ディメトロドンが属するスフェナコドン類やエダフォサウルス類も含まれており、ペルム紀前期に繁栄した動物群でもあります。。
オフィアコドンは、その名前の由来の「ヘビの歯」にもあるように、細い歯を持っており、そこから主に魚を捕食する半水棲動物説がある一方で、縦に高く、横幅の狭い頭部が水中での捕食には向かない、また比較的しっかりとした四肢から、主に陸上で生活していたのでは、という説もあります。
今回は、陸上生活説に基づいてイラストを描いてみました。陸上での行動を想定して、胴体は少し細めにしています。


オフィアコドンには現在複数種が報告されており、今回参考にしたフィールド博物館の骨格はmirus種になります。全長は1.6m。これが最大と言われるmajor種だと全長2.6mになると言われています。

















(全身骨格 2007年 シカゴ・フィールド博物館にて撮影)


主な参考資料

・"Encyclopedia of Paleoherpetology. Pelycosauria" ROBERT R.REISZ


(イラスト・文 ふらぎ
(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年8月4日木曜日

ラプトレックス  Raptorex kriegsteini



Raptorex kriegsteini
ラプトレックス クリエグステイニ

白亜紀前期(?)
中国
全長 2.6m


白亜紀前期のティラノサウルス科の恐竜。これまで、白亜紀後期のティラノサウルス科の恐竜の小さな前肢は、大型化した頭部とのバランスを取るため小型化した、という説がありましたが、このラプトレックスが時代がより古く、また頭も小さく、体も小さいにも関わらず前肢がすでに小さいため、ティラノサウルス科の小さな前肢は、頭部の大型化とは関係が無い、という事の根拠になりそうだったのですが、、、、

その後、このラプトレックスが白亜紀後期のモンゴルから発見される大型ティラノサウルス科のタルボサウルスの子供ではないか、と言う説も出されています。これは、そもそもこのラプトレックスの化石は化石収集家が私的に購入したもので、発掘された場所が確定されていない、という事が原因でもあります。化石は、化石そのものだけでなく、発見された場所やその地層のデータ、発見された状態等にも非常に重要な情報があります。学術的な発掘の場合は当然、すべての記録をしっかり取るのですが、そうでない場合は、そのデータも無い事が多く、それが故に化石自体は良い物であっても、研究するには支障が出てくる場合もあるのです。

今回のイラストは、2011年の東京・国立科学博物館で開催の恐竜博2011で展示の全身骨格を基に描いています。ラプトレックスの復元に関しては、オフィシャルなイラストと模型が発表されています。特に頭部の復元模型は個人的にも非常に納得の行く物で、いまさら私がイラストを描く必要も無いのですが、全身骨格が魅力的だったので、描いてみたくなったのです。ただ、オフィシャルのイラスト・模型と全く同じでもつまらないので、羽毛の生え方・量は違うものにしました。オフィシャルのものより全体的に羽毛が多いのですが、小さい恐竜といっても、現生の鳥類に比べれば大きく、ダチョウくらいのボリュームはあるので、ここまで全身が羽毛だったかは、自信が無いところです。














ラプトレックス頭部復元模型
(恐竜博2011にて撮影)

前肢は、今や定番の復元となっている、手のひらが内側を向く小さく前へ倣えスタイル。

















手のひらが後ろを向く哺乳類のような、いわゆる「恨めしやスタイル」の復元は、ここ数年では随分少なくなりました。


主な参考資料

・「恐竜博2011」カタログ

・Reanalysis of “Raptorex kriegsteini”: A Juvenile Tyrannosaurid Dinosaur from Mongolia
Fowler DW, Woodward HN, Freedman EA, Larson PL, Horner JR (2011)

(イラスト・文 ふらぎ
(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年7月21日木曜日

ティロサウルス Tylosaurus proriger


 
Tylosaurus proriger
ティロサウルス プロリゲル


北米
全長約11m(最大15m?)

白亜紀後期


白亜紀後期の海に繁栄した爬虫類・モササウルス類の中でも
最大級の種類の一つです。

今回のイラストは、2010年発表の"Convergent Evolution in Aquatic Tetrapods: Insights from an Exceptional Fossil Mosasaur"Johan Lindgren, を 基に、尻尾に三日月型のヒレのある復元で描いています。2010年の発表にある通り、三日月型の尾ヒレ説の基となる尻尾の曲がりが確認されているのはプラテカルプスですが、モササウルス類の中でも比較的原始的な部類のプラテカルプスにこの尾ビレがあるのであれば、進化型のティロサウルスにも尾ビレがあるだろうと仮定しています。

モササウルス類は、トカゲやヘビと同じ有鱗目に含まれるとされています。


 










 頭骨にも有鱗目としての特徴が表れています。また、上顎の口蓋内側にも口蓋歯といわれる歯が並び、左右に開く下顎と共に、獲物を飲み込むのに役に立っていたようです。



 















 (プラテカルプス頭骨 2010年きしわだ自然資料館特別展にて撮影
ティロサウルスではありませんが、特徴の分り易い画像と言う事で)

今回のイラストは、オズボーンによる有名な全身骨格図をベースに、尻尾の形状等を調整して描きました。手足のヒレに指の骨をトレースするような凹凸がある復元もありますが、各指の太さや、水中での活動の上での水流の影響を考慮すると、そのような凹凸が無い、という考えに従っています。
また、モササウルス類というとどれも同じようなプロポーションで描かれがちですが、頭部はもちろん、胴と尻尾の比率や手足のヒレにも違いがあり、それぞれに個性があります。ティロサウルスは、手足のヒレはモササウルス類の中では細長いオール状で、尻尾が長いタイプになります。

 
















 ティロサウルス全身骨格 国立科学博物館にて2008年撮影

 ティロサウルス(右)他、モササウルス類展示
(2015年・ペロー自然科学博物館にて撮影)

主な参考資料

・"Convergent Evolution in Aquatic Tetrapods: Insights from an Exceptional Fossil Mosasaur"
Johan Lindgren, Michael W. Caldwell, Takuya Konishi, Luis M. Chiappe 

・"Systematic and Morphology of American Mosasaurs"
Dale A. Russel

・"OCEANS OF KANSAS"
Michel J.Everhart

きしわだ自然資料館特別展「モササウルス」パンフレット
(小田隆氏による、最新に復元に基づき、かつ各モササウルス類のポロポーションが描き分けられた復元画が掲載されています)

(イラスト・文 ふらぎ

(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年7月14日木曜日

プラコドゥス ギガス Placodus gigas



 













Placodus gigas
プラコドゥス ギガス

ヨーロッパ
全長 約2m

三畳紀中期

  :
 前回のmeribenniさんのクバノコエルスの記事で、クバノコエルスの種名がギガスなのを知り、そう言えばコイツもギガス種がいたな、と描いてみました。
プラコドゥスは板歯類(板歯目)と言われる三畳紀に繁栄した爬虫類の一種です。板歯類は、このプラコドゥスのようにウミイグアナのような姿のものもいれば、ヘノドゥスやプラコケリスのようなカメのような装甲を背負ったものもいて、なかなかユニークな一群です。また、板歯類という呼称にもあるように、非常な特殊な歯を持っている事でも
知られています。


















板歯類・プセフォ
デルマ(作品詳細



今回、このイラストを描くにあたって、骨格の画像を見ていて初め
て知ったのですが、下顎に大きな突起があります。














(ゼンケンベルグ博物館にて2011年撮影)

このような大きな突起をもつ爬虫類は多くは無いはずで、他といえばトリケラトプスのような角竜や、イグアノドンやハドロサウルスの仲間でしょうか? この突起があるという事は、口が顎関節、つまり頭の後ろのほうまで大きく裂けた一般的な爬虫類とは違う、爬虫類としては異質な顔つきをしていたかも知れません。







上顎を裏側(口蓋側)から見た図。
閉口時にはグレーの部分に突起が入るのかな? 黒色の部分が歯。化石で見ると黒くて平たい、碁石を思わせる形状です。
























(ゼンケンベルグ自
然史博物館にて2011年撮影)
今回のイラストは、このドイツ・ゼンケンブルグ自然史博物館で撮影した骨格を基に、チュービンゲン大学やレーヴェントール博物館の復元骨格を参考に描きました。前に突き出した前歯から「出っ歯」状態に表現される事が多いですが、歯そのものはそれほど大きくはなく、そこに歯ぐきや唇が被ればそれほど目立たないと考え、歯の前突による露出は控えめ表現にしています。














(チュービンゲン大学にて2011年撮影)


主な参考資料
・"THE BRAINCASE OF PLACODUS AGASSIZ, 1833"
Stefania Nosotti & Olivier Rieppel

・"Handbuch der Palaoherpetologie Sauropterygia 1"
O. Rieppel


(イラスト・文 ふらぎ) 
(恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年7月7日木曜日

クバノコエルス Kubanochoerus gigas


Kubanochoerus gigas
クバノコエルス ギガス
場所 ユーラシア 
時代 中新世
 :
 クバノコエルスは絶滅した大型のイノシシで、gigas種はクバノコエルス属最大の種です。
前頭部の中央にある一本の角は、オスにだけあるとする説もあり(角の無い頭骨も発見されています)、オス同士の闘争に使ったともされます。
アフリカ中部に生息する現生のモリイノシシHylochoerus meinertzhageni のオスは、頭部に幾つかのコブ状の隆起があり、オス同士で額を打ちつけ合う闘争スタイルをもっていますが、クバノコエルスのオスの闘争も幾分似たようなものだったかもしれません。

 クバノコエルスは以前から描いてみたいなあと思っていたものの、頭骨の写真以外に資料が無くて描けなかったのですが、ふらぎさんの家で何気なく読んでいた本に復元全身骨格の写真が載っていたので、それをもとにしました。

 全身の絵では顔が分かり難かったので、頭の絵を追加しました。
眼窩の上にも一対の角もしくはコブがあります。
参考にした中国で発見された頭骨は、額の角が若干鼻先に向かってゆるく曲がっているので、そのままの形で角を描きました。
しかし、グルジアで発見された頭骨(同じgigas種)をもとに描かれたMauricio Anton氏のイラストでは、角はまっすぐになっています。
個体差なのか、曲がっている方は土圧で歪んでいるのか、調べ切れなかったので気になるところです。

主な参考資料
・「中國古生物」(出版社不明)
(Alan Turner & Mauricio Anton / 訳;冨田 幸光 / 丸善株式会社)
(Jordi Agusti & Mauricio Anton / Columbia Univ Pr)
"East African Mammals : An Atlas of Evolution in Africa, Part B : Large Mammals"
(Jonathan Kingdon / Univ of Chicago Press)

(イラスト、文 meribenni)

2011年7月1日金曜日

シノニクス Sinonyx jiashanensis



Sinonyx jiashanensis
シノニクス ジアシャネンシス
暁新世後期 東アジア(中国)
 シノニクスは、絶滅した蹄を持つ雑食~肉食哺乳類・メソニクス目に属します。
短い四肢に長い尾、体に不釣り合いに見えるほど大きな頭を持つなど、現生の哺乳類には無い様な独特なフォルムをしていました。
その頭骨の非常に発達した矢状稜が、個人的にはとてもかっこよく思えてかなり好きな古生物です。
 今回のイラストは、国立科学博物館名古屋港水族館に展示してある全身復元骨格をもとに描きました。他に形態に関する資料があまり見付からなかったので、ほぼ全身骨格からのみの復元です。
全体的なイメージは、以前描いたパキヤエナの論文からの類推、また現生の食肉目を参考にしました。
 描き上げてから見直すと、スカベンジャーっぽくイノシシ的な雰囲気を出した方が、よりそれらしい感じだったかな? とも思います。
また、後肢の中足骨の部分が長過ぎるのでちょっと良くないですね。
上の二点に気を付けて、また描いてみたい古生物です。

主な参考資料
・シノニクス全身復元骨格
"Functional and behavioral implications of vertebral structure in Pachyaena ossifraga (mammalia, Mesonychia)"

Xiaoyuan Zhou, William J.Sanders, and Philip D. Gingerich
(Contributions from the museum of paleontology the university of Michigan, Vol. 28, 1992)

Xiaoming Wang & Richard H. Tedford, Mauricio Anton (Columbia University Press)
Jonathan Kingdon (Univ of Chicago Press)
Jonathan Kingdon (Univ of Chicago Press)

(イラスト・文 meribenni)


 シノニクスを含むメソニクス目は、鯨類の直接の祖先の一群として長年重要視されてきましたが、ここ20年ほどの間の新発見や分子解析等、化石・現生動物双方の研究から、現在では鯨類の先祖という地位からすべり落ちてしまいました。とはいえ、meribenniさんの解説にもある通り、なかなか個性的な頭骨や蹄に近い形状をしていたとされる足等、復元の題材としては魅力的な動物である事に変わりありません。
(ふらぎ)

2011年6月1日水曜日

シモスクス クラルキ Simosuchus clarki


Simosuchus clarki
シモスクス クラルキ

発見地:マダガスカル
全長: 約63cm
時代:白亜紀後期
 :
吻部の短い顔と、特徴的な歯を持つワニです。歯は一般的なワニの様な鋭い円錐形でなく、植物食恐竜の歯に似た形状で、そのため植物食の可能性が示唆されています。その特徴的な頭部から復元画も多く描かれていそうですが、意外に全身のイラストはそれほど多くありませんでした。どうやら頭骨は非常に状態の良い化石が発見されているものの、胴体に関しては一部(上半身のみ?)しか報告or発表されておらず、それが復元を試みる際のネックになっていたようです。私も2007年にフィールド博物館で頭骨を見て以来造りたいネタだったのですが、やはり胴体部の判断が出来ず見送らざるをえない状態。少数ある全身が描かれたものも、胴体は一般的なワニと同様なもので想像されていました。ところが、2009年のSVP・古脊椎動物学会で全身を表した発表があり、頭部だけでなく、長めの四肢に短い尻尾という胴体も特徴的な姿にとても驚いたものです。学会発表とはいえ、まだ研究の途中で論文としての正式な発表では無いという事で、その姿を造形やイラストにする事は控えていましたが、2010年に詳細な報告が出版。非常に状態の良い全身の化石と共に、骨格図と復元模型も発表されました。それだけ良いビジュアルが提示されていれば、今さら私がイラストを描く必要も無いのですが、そこはやはり自分でも描いてみたくなったのです。
















(シモスクス頭骨 2007年シカゴ・フィールド博物館にて撮影)



主な参考資料
・Simosuchus clarki (Crocodyliformes: Notosuchia) from the Late Cretaceous of Madagascar. Society of Vertebrate Paleontology Memoir 10. Journal of Vertebrate Paleontology 30(6, Supplement). D. W. Krause and N. J. Kley (eds.), >SVP公式サイトの記事

・「SuperCroc and the Origin of Crocodiles」( National Geographic)

(文・イラスト ふらぎ
恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年2月20日日曜日

プテロダクティルス コキ Pterodactylus kochi




 














Pterodactylus kochi
プテロダクティルス コキ


ヨーロッパ
翼開長 最大約50cm
ジュラ紀後期
  :
 プテロダクティルス属は、翼竜の中では小型の部類ですが、翼竜として最初に発見・報告され、また標本が多い事でもよく知られています。

 他の古生物の例と同じく、翼竜の復元も様々な説が発表されています。以前は爬虫類のような皮膚を持つ動物として表現されていましたが、1970年代以降はより保存状態の良い化石の発見や、その他の研究により、体毛をもった動物としての表現が定着しています。地上での姿勢に関しても、現生のコウモリに近い、地面を這うような姿と、前後肢をほぼ直立させた姿等、幾つかの説があります。さらに翼の膜の形状についても諸説あり、今回のイラストでは、"The extent of the pterosaur flight membrane.(Elgin, R.A., Hone, D.W.E and Frey, E.)の中での考察に基づき、翼の皮膜は膝に繋がる説を採用しています。地上姿勢はコウモリ型と直立型の中間、といった感じでしょうか。地上姿勢や翼の膜に関しては、翼竜の中でも種類によって幾つかのバリエーションがあったのではないか、と考えられているようです。

 プテロダクティルスと言えば、奇妙な形のトサカをもつ種類が多い翼竜の中でもトサカが無い種類とされる事が多いのですが、現在では近縁種の化石の観察から、プテロダクティルスにもトサカがあったのでは、とも考えられ、その説に沿った復元画も見られます。今回のイラストですが、プテロダクティルスのトサカの形状がはっきりと分る資料が手に入らなかったため、トサカ無しとして描いています。一方で、翼竜の中には、トサカがあるのはオスという種類の報告もあるので、その説に従えば、このイラストもメスを描いている、とすれば(とりあえずは)良いのかも知れません。

























:
主な参考資料

"How to Tell a Pterodactyl's Sex: Dino-Era Riddle Solved by New Fossil Find"(ScienceDaily)

・"The extent of the pterosaur flight membrane." Elgin, R.A., Hone, D.W.E and Frey, E.

・"Sexual dimorphism of Pteranodon and other pterosaurs, with comments on cranial crests" S. Christopher Bennett

Pterosaur.net

・「翼竜」(ペーター・ヴェルンホファー 平凡社)

・「世界最大の翼竜展」展覧会カタログ

(文・ふらぎ/イラスト・ヤマモト

2011年2月14日月曜日

ヒュプロネクトル Hypuronector
















Hypuronector limnaios
ヒュプロネクトル リムナイオス

北米
全長 12cm
三畳紀後期
 :
ヒプロネクター、ハイプロネクター等と表記される事もありますが、ここではラテン語読みに合わせています。
如何にも木の葉に擬態したような尻尾と、長い四肢が特徴的な爬虫類です。尻尾の形と化石が湖の底で形成された地層で発見されている事から、水生生活説が一時提唱されましたが、現在では樹上生活をしていたと考えられているようです。一方で、その尻尾をラダー(舵)として、長い前後肢の間に皮膜を持つ、ムササビのような滑空する動物としての説もあり、海外の書籍にはそのようなイラストも見られます。系統的には、樹上生活する動物と考えられているメガランコサウルスやドレパノサウルスを含むドレパノサウルス形類に属するとされています。

今回のイラストでは、まだ発見されていない前後の指骨と、首、上顎の部分の詳細は描いていません。樹上生活説として描いていますが、現生の樹上生のトカゲのような、樹皮に張り付くように移動すると考えると、下方向に幅のある尻尾が移動の時に邪魔にならなかったのか、という疑問も。長い四肢で体を持ち上げていたのか、枝から体を吊り下げるよう移動をしていたのか(Alain Beneteau氏がこの復元でイラストを描いています)。また、この尻尾が葉への擬態としても、この尻尾の形に近い植物が同じ時代・地域に存在していたかどうかも気になります。シンプルなデザインですが、考え出すとなかなか不思議な動物です。


:
主な参考資料

・The Hairy Museum of Natural History
「Monkey-Lizards of the Triassic」  

・"The taxonomy and paleobiology of the Late Triassic (Carnian-Norian: Adamanian-Apachean) drepanosaurs (Diapsida: Archosauromorpha: Drepanosauromorpha). New Mexico Museum of Natural History and Science Bulletin 46," Renesto, Silvio, Spielmann, Justin A., Lucas, Spencer G. and Tarditi Spagnoli, Georgio,

・"A new and unusual aquatic reptile from the Lockatong Formation of New Jersey (Late Triassic, Newark Supergroup)." Colbert, E. H., and Olsen, P. E. (2001).

・「The World Encyclopedia of Dinosaurs & Prehistoric Creatures」
Dougal Dixon

・「La Terre avant les dinosaures 」Sebastien Steyer

(イラスト・文 ふらぎ
恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

2011年1月28日金曜日

プテラノドン? ゲオステルンベルギア?















Geosternbergia sternbergi (Pteranodon sternbergi)
ゲオステルンベルギア ステルンベルギ
(プテラノドン ステルンベルギ)
白亜紀後期
北米
翼開長 9m


プテラノドンと言えば、翼竜を代表する、一般的には翼竜=プテラノドン、とイメージされているかもしれない有名な古生物です。プテラノドン属の中には多くの種類が提唱されて来ましたが、それがおおよそプテラノドン・インゲンスとプテラノドン・ステルンベルギの2種に纏まり、またさらにインゲンスはプテラノドン・ロンギセプスと種小名が変更になりました。個人的にはずっとインゲンスの種小名で馴染んで来ていたので、ロンギセプスへの変更を知った時は驚いたものです。
ロンギセプスとステルンベルギの外見上の一番の違いはトサカの形状でしょう。一般的にプテラノドンとしてイメージされるのはロンギセプスのはず。また、ここにトサカの雌雄差での形状の違いも入ってくるようです。
さらに最近、ステルンベルギに関しては、そもそもプテラノドン属では無い、という説が発表されました。この説ではステルンベルギは種小名はそのままに、属はゲオステルンベルギアに変更されてます。その説に従えば、プテラノドンといえば、まさのあのトサカのロンギセプスのみ、という事に。ただし、プテラノドンもゲオステルンベルギアもプテラノドン科になるので、属としては違う動物になってはいるものの、近縁種である事は変わりありません。

上・プテラノドン・ロンギセプス
下・ゲオステルンベルギア・ステルンベルギ
(プテラノドン・ステルンベルギ)

今回のイラストはヤマモトさんに描いて貰いました。翼竜の復元も各部に諸説があり、特に皮膜の形は学説や翼竜の種類によっても違いがあります。また、頭の角度は、この研究を参考に少し嘴を下げ気味の角度に。ただし、この研究はアンハングエラについてのものですので、それがそのままプテラノドン類に当て嵌まるかは未確認。足の向きは足の裏が内側を向く、「前へ倣え」状態にで描いて貰いました。

ちなみに、現段階でプテ ラノドン、ゲオステルンベルギアが発見されているのは、白亜紀後期でも約8300万年から約7000万年前の地層からです。ティラノサウルスやトリケラト プスが現れるのはその後ですから、その2頭の背景にプテラノドンが飛んでいる、というのは現段階では間違いという事になります。


主な参考資料
・「世界最大の翼竜展」公式カタログ
・「翼竜」(ペーター・ヴェルンホファー 平凡社)
・Alexander W.A. Kellner "Comments on the Pteranodontidae (Pterosauria, Pterodactyloidea) with the description of two new species"
・Elgin, R.A., Hone, D.W.E and Frey, E. 201X. "The extent of the pterosaur flight membrane." Acta Palaeontologica Polonica 5X(X): xxx-xxx. doi:
10.4202/app.2009.0145



(文・ふらぎ/イラスト・ヤマモト

恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)

 

2011年1月11日火曜日

プロトサウルス Plotosaurus











Plotosaurus
アメリカ・カルフォルニア州
全長 約9m
白亜紀後期


"A fishy mosasaur: the axial skeleton of Plotosaurus(Reptilia, Squamata) reassessed."Lindgren, J., Jagt, J.W.M. & Caldwell, M.W. 2007:  の骨格図を基に描いています。基にした骨格図では、尻尾の先が下方に曲がっており、魚竜やサメのような尾ヒレを持っていた可能性が示唆されています。このモササウルス類の尾ヒレの存在は、その後に発表された"Convergent Evolution in Aquatic Tetrapods: Insights from an Exceptional Fossil Mosasaur"Johan Lindgren, Michael W. Caldwell, Takuya Konishi, Luis M. Chiappe においてさらにはっきりと表現されています。ただし、どちらの論文においても、尾ヒレの上側の部分は痕跡が残っていないため、あくまで推測として形が示されています。
また、尾ヒレの曲がる角度も、後者の論文において紹介されているプラテカルプスの標本ではもっと大きく下方に曲がっているため、モササウルス類の中でも最も進化型と考えられているプロトサウルスでも同じような尾ヒレの角度になっていた可能性も考えましたが、今回はあくまで論文に掲載の骨格図に準じました。

プロトサウルスは、モササウルス類としては細長い口と、幅が狭く長さのあるオール型の前後ヒレも特徴で(クリダステスやプラテカルプスの前後ヒレは卓球のラケット型。ティロサウルスはプロトサウルスに似たオール型です)、その姿はモササウルス類というよりも、原始的な魚竜であるウタツサウルスを連想させます。今回のイラストの基になった論文のタイトルにも”A fishy mosasaur”とあるくらいですから、モササウルスとしては異質なデザインと言って良いかも知れません。モササウルス類は出現から白亜紀末の絶滅までは3000万年と、他の中生代の海棲爬虫類と比べても短い期間の繁栄でした。魚竜が2億5千万年前に現れ9000万年前に姿を消すまで1億6千万年間存在していた事、その魚竜と入れ替わるようにモササウルス類が現れた事から、もし白亜紀末のモササウルス類の絶滅が無ければ、魚竜と同じような姿に進化していたのか、それともまた違った進化の姿を見せていたのか、等といろいろ想像してしまいます。

プロトサウルス全身骨格
(2013年 ロサンゼルス郡立自然史博物館にて撮影)


:
主な参考資料

・A fishy mosasaur: the axial skeleton of Plotosaurus(Reptilia, Squamata) reassessed."
Lindgren, J., Jagt, J.W.M. & Caldwell, M.W. 2007

・"Convergent Evolution in Aquatic Tetrapods: Insights from an Exceptional Fossil Mosasaur"
Johan Lindgren, Michael W. Caldwell, Takuya Konishi, Luis M. Chiappe 

・「恐竜解剖」(クリストファー・マクガワン)

・きしわだ自然資料館特別展「モササウルス」

(イラスト・文 ふらぎ
恐竜・古生物イラストブログ「Extinct Creatures」)